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清田雅裕/会社員

自転車との出会い
中学生のときに知ったツール・ド・フランスが大きなきっかけです。当時は“サイクル・スポーツ”という雑誌でしかその様子を覗き見ることができず、グラビアを見てはそこで走ってみたいと思っていました。それから友達からパーツを買ったりして自転車を組み立てるようになりました。その後一旦、興味が他のことへ移ってしまったんですが、こ の歳になって再燃してしまったんです。ある日、廃品置き場に 捨ててあった自転車がとても素敵で、ついつい持って帰ってし まいました。チェレステ色のその自転車を修理して乗っている と、だんだん自転車への興味が戻ってきました。ある日、近所の斉藤輪業という自転車屋の片隅で三連勝を見つけて、斉藤さんに売ってくださいとお願いしたのですが、売らないと言われて。だから拾ってきたその自転車と8万円を合わせて、これと交換してほしいと頼み込んでなんとか譲ってもらいました。トラックレーサーに乗ったのはそれが初めてですね。乗り慣れてくると、地面と自分が繋がっているような感覚がとても気に入って。それからいろんなメーカーの部品を、収入の 許す範囲でたくさん買うようになり、今ではCinelliや King Speedなど10台くらいあります。60~80年代のヴィ ンテージのフレームに対するフェティシズムなんでしょうか ね。

ヴィンテージ
昔のものは、ヒストリーがあるので好きですね。一点もののオリジナリティも魅力です。僕のColnagoはウィーンから取り寄せたんですが、名前が書いてあったりとか、全く同じものは存在しないんです。デザインに関しても、当時そのデザインであるべき理由があったはずですから、そういうものを自分の目で見て触って検証したくなります。もし60年代のヨーロッパに生きてたら、その時代の競輪の自転車に興味があったでしょうね。写真を見ても美しいし。ヴィンテージのいいところは、何らかの理由が あって次の世代に伝えられているということ。最近僕は仏像を 見に行ったりするんですが、奈良時代のものってとても美しいも のが多いんです。それも多分同じことで、理由があって今に伝 えられている。この50~60年代くらいのCineliも、もう錆だらけなんですけど、バーガンディの色とか雰囲気があっていいですよね。これを酒を飲みながら眺めたりするのが楽しいんです。昔のものをあまりレストアせずに、できるだ けそのままの状態で乗りたい。だから、パーツも同じ時代のも のを使います。当時どんな感じだったのかを再現できますから ね。仕事は広告関係で、新しいものを売り込むのが仕事なんだ けど、自分は昔のものが好きでそこは少しギャップを感じてい ます。ただ、新しいものでも本当にいいものはいいと思うし、そういうテンションで仕事をしたいと思ってます。新しいものがすべて悪いわけではないんですが、新しいものがいいものである確率は低いです。70年代までは選手がオーダーして初めて自転車が作られていたんですが、80年代からは大量生産が始まったために、当時の自転車を比べるとそこから伝わってくるオーラというか感覚は違いますね。僕にはそういう直感みたいなものがあるんです。

 

 

 

自転車に乗ること
何かを考えながら自転車に乗るというのは僕には難しくて、自転車に乗るとすべてをリセットしてしまうんです。だから、音楽を聴きながら乗るとかっていうのは僕には考えられないですね。用事があるときは乗らないんです。乗るために乗るっていう。だから、用事があるときには電車で行きます。土日にしか乗れないですけど、乗る時は距離を最初に決めて、乗ってから行き先が決まります。どの自転車に乗るかということだけ前日に決めて。スキーとかスノーボードのアルペンで長い坂道を高速で降りていく感じは好きだけど、ゲレンデはどこでもいいんです。乗ることだけが目的です。

仕事と自転車
仕事は広告の営業です。規模の大きな企業ですので一人で仕事が完結するということはごく稀で、チームですることがほとんどです。それは人間関係の中に成り立つことだと思うのですが基本的には協調性のない人間なので、ずっとそれだと大変。それを解き放つというか、孤独な自分のはけ口というか、一人で向き合う時間が必要だから自転車に乗っているような気がします。自転車はルールさえ守って乗ってれば、他の人に迷惑も掛けないし、エコロジーですし。親父からもらったカメラなんかもそうですけど、使えるものは使えばいいと思います。でもユニクロとかiPodなんかも好きですよ。デザインや機能もいいですからね。新しいものでも企画力とか価値のあるものは使っています。今の自分に合っているものが、たまたま今は 古いものが多いというだけです。

コレクター
とにかくいろんなものをコレクションするのが好きで、同じものの色違いとか長さ違いを集めてしまいます。スニーカーとかスウォッチとか。モノを自分が使うのか他の人が使うのかというだけのことだと思うんですが、自 転車の場合はそこに自分が加わって完成するという感覚があります。 買って、組み立てて、乗ってみて初めて完結するので、他のコ レクションとはちょっと違うんです。最初はある程度乗ったら 売ろうと思っていたんですが、僕の自転車は二度と手に入らな いものが多いので手放せなくなるんです。妻と僕のコレクショ ンについて、真面目に話し合ったことはまだないです。時々思い出したように言われることもありますが、肩を揉んだり花を買ってきたり、他でリカバーしています。まだ値段は告白していないので、もし伝えたらひどく怒られると思います。

   

  
 

 

杉本博司
絵や写真をコレクションするのも好きで、杉本博司の作品を少し集めています。出張するときはその土地の美術館に立ち寄るようにしていて、大阪に行ったときは国立美術館に行ったんです。そこで杉本博司の作品を初めて生で見て、ある写真に何とも言えない不思議な感覚を覚えました。調べてみると手に入りづらい作品だということがわかったので、ひとつ欲しいなと思い始めたんです。銀座のギャラリー小柳に連絡すると、直接杉本先生に頼んでくださって。当時のレートで200万円くらいだったんですが、クレジットカードが使えず現金で支払いました。僕のはシリアルナンバーが11番です。しば らく家に飾っていましたが、さすがにヴィンテージプリントを 日の光に晒せないので、最近は人が来たときにだけ出してます。

エディ・メルクス
一昨年のサイクル・モード・ジャパンに来たときに、会いに行きました。僕が小さい頃に1時間で49km走るという記録をメキシコシティで作って以来ファンでしたから、当時の写真を持って行ってサインしてもらいました。そのアワーレコードを出した頃、メルクスは Colnagoに乗っていて、通常8kgくらいの自転車に穴を たくさん空けて5kg台にしていたんです。当時としては驚異 的な重量でしたね。1970~75年にダブル・ツールを達成 したり、アワーレコードを更新したり、最高に強い選手だった んです。軽量化にも熱心だったし、先進的な人だったんでしょ うね。当時、“カニバル”という形容詞を付けられていて、そのくらい勝利に貪欲な人だったんだと思います。

これから
こういう自転車を飾って、それを見に来る人を相手に喫茶店でもして過ごしたいなと思っています。自転車は、毎日をリフレッシュしてくれる存在としてずっと持ち続けると思います。そういった距離感で付き合っていきたいですね。今は毎朝14kmくらい走っていて、時速を記録するようにしています。現時点で、のべ1万km走っているんですが一日として同じ日はありませんでした。トラックレーサーはパーツが少ない分、身体のコンディションがはっきりと表れるのでおもしろいんです。それと自転車通勤がもっと一般化すれば、働く人のメンタリティも変わってくるんじゃないかと思います。僕はしないと思いますが。ヨーロッパに比べると、日本はまだまだ少ないですしね。

 

 

 

interview: Junko Hirai, photos: Alin Huma